テェ・ケラー/作 こだまともこ/訳 評論社
2022年

カリフォルニアからハルモニ(おばあちゃん)の住む町に引っ越してきたリリー。ハルモニの娘であるお母さんと、突然の引越しにいらつくティーンエイジャーの姉サムの間で、いつもいい子で存在感を出さない「透明人間」。
ところが引っ越し当日、大雨の降る中、ハルモニの町についたとたん、道の真ん中に大きなトラを見てしまう。以前ならサムに簡単に打ち明けられたのに、リリーのことをQAG(おとなしいアジア系の女の子)なんていう今のサムには言えない。ママも全然話を聞いてくれない。大好きなハルモニには打ち明けられたけど、「トラを信じちゃだめ」というし、なんだか様子が変。家の向かいの小さな図書館にトラのことを調べにいったら、なんとそこにもトラが出た。でも、陽気な男の子リッキーと知り合いになれた。リッキーのひいおじいさんは、トラ狩りをしてたんだって。
「むかしむかし、トラが人間のように立って歩いていたころ」で始まるトラと人間の姉妹の韓国の昔話をよく話してくれた、大好きなハルモニ。でも、なんだか様子が変。そんな時トラが夜中家の中に表れて、ハルモニが昔、トラから盗んだお話を取り返しにきたっていう。返せば、ハルモニの具合が良くなるって。本当かな。
2021年ニューベリー賞。この魅力的なタイトルの物語の作者テェ・ケラーさんは、韓国人の祖母を持ち、ホノルル生まれのアメリカ人。後にニューヨークに渡った著者は、アメリカでは大きい声で自分を主張できないといけないといい、でもそうではない、おとなしい女の子を主人公にした物語を作り出しました。日本人としては、共感しやすい主人公です。あおぺんは、タイトルを見た瞬間ちょっとドキドキしました。
韓国人のハルモニの文化は、ちょっと独特なところがあり、その違いがこの物語のファンタジーの背景になっています。ですがそれだけではなく、ハルモニの昔話には実はハルモニの血筋の、つまりはリリーの家系の秘められた過去があります。トラも、ただ昔話を取り返しに来ただけではないのです。
民族には、それぞれに伝えられた昔話があって、人々に伝えられてきた昔話には力があるのだということを、今回改めて感じました。今はなかなか、子ども達が昔話を聞く機会が少ないそうです。どうか、日本の歴史や文化とともに、昔話もきちんと伝わっていきますように。