『あした、弁当を作る』


ひこ・田中/著 講談社

2023年

ある朝、タツキはいつものように母が「いってらっしゃい」と軽く背中に触れた時、ゾクッと寒気がした。なぜだろう。それ以来、母の手をさけるようになった。タツキの母は専業主婦で、家事を完璧にこなしている。お弁当もいつも手作りで、タツキは弁当をおいしく食べなければいけないことにプレッシャーを感じ始める。気持ちの悪い感じを、タツキは自分で弁当を作ることで逃れようとし始めた。

でも、弁当って一体どう作る?タツキのとなりの席のマシロが、自分で冷凍食品を利用した弁当を作ってくると聞き、初めてスーパーの冷凍食品売り場に行ったタツキは、小遣いでおかずを買い、翌日初めて弁当につめてみた。

しかし、母は冷凍食品に拒否反応を示し、父も弁当を作ることが母の仕事なのにそれを奪うタツキはよくない、と諭す。

友だちは、タツキの反抗期がきたんだね。と、温かく見守るが、タツキ自身は自分のこの感情がはたして反抗というものなのか、なかなか理解できない。ただ、弁当は自分で作りたいのだ。


中一にしてはとても素直で実直な龍樹少年の、自立の一歩を描く13日間の物語。これまで、専業主婦の母が家族のためと食事を作ったり、おやつを用意したり、洗濯、掃除をすることを何の疑問も持たずにきたタツキは、ある日突然違和感を感じ始める。でもそれが何なのかコトバにすることができない。そこで弁当を自分で作り始めるのだが、母親にとってはタツキ少年が生きがいで、父親は仕事優先のややモラハラ気味の人。タツキの自立を両親は全く理解できない。

タツキの周りの友達は、なかなか現代的で、女だから家事をするという考えはもう持っていないし、両親が共働きで忙しく、かといって弁当を買うのもあきたから自分で弁当を作っているマシロなど、肩に力の入っていない柔軟な子ども達です。

時代がどんどん変化していく現代、確かにこんな世代間ギャップはあるだろうなと思います。ただ、タツキの両親は、年齢の割には昭和の価値観にしばられている人達です。そこから無意識に脱しようとしているタツキ少年が、それでも母の気持ちを気遣い、迷惑をかけないようにしたいと努力している様が、いい子だなーと力をかしたくなる物語。タツキによる一人称の語りは読みやすく、さすがひこ・田中さん。男子物名人ですね。

弁当作りの腕は、13日間でもなかなか上達するし、実は料理に興味があるタツキ少年は、将来有望で、ちゃんと生活のできる大人になるでしょう。いやー、これからの男子はこうなんですね。ばりばりの昭和の男・あおぺんの父なんか、本当になんにもできなくて、なんかなーと思うんですけどね。


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