『みしのたくかにと』


松岡享子/作 大社玲子/絵 こぐま社

1998年

むかしあるところに おりょうりが好きな ふとっちょおばさんがいました。おばさんは、台所の戸だなのすみから 黒い小さなたねを みつけて、にわにうえました。

「あさがおのたねですよ」「すいかのたねですよ」そういわれましたが、おばさんは 「あさがおかもしれない すいかかもしれない とにかくたのしみ」とたてふだを たてました。ところが、そだってくると どうやらかぼちゃのようです。おばさんは、かぼちゃがみのったら パイをつくろうと たのしみにしていました。

あるひ、王子さまが おばさんの家のまえを 馬車でとおりかかりました。ふだを反対に読んだ王子さまは、ちょっと楽しくなりました。この王子さま、勉強ばかりさせられていたので、あるひいやになって、ごはんを食べなくなりました。そして、「いなれしもかおがさあ いなれしもかかいす みそのたくかにと」なら食べるといったのです。さあ、けらいたちは大さわぎ。


料理上手なおばさんは、いつだって、子どもの頼れる味方です。ふとっちょおばさんも、王子さまのようすをみると、すぐ一計を案じました。王子さまが、外の草原で他の子ども達と楽しく「みしのたくかにと」を食べられるように手をうったのです。ここでいう「みしのたくかにと」はかぼちゃのパイ。きっと、すごく美味しいはずです。

子どもの物語の世界では、ほんの小さなことが始まりを引き起こします。この物語の始まりもたった一粒の種。何の種かわからないけど、植えて楽しみに待つふとっちょおばさんのユーモアが、この始まりをさらに紡いでゆきます。

子どもが、子どもらしい子ども時代を過ごせないのは、悲しいことです。この王子さまも、とにかく勉強漬けの毎日。もし、このまま王さまになっていたら、きっと暗くふさいだ王さまになって、国も暗くなっていたことでしょう。たとえ王子さまでも、子どもはちゃんと楽しく遊ぶ時間が必要なのだと、松岡さんは信じているのではないかな、とあおぺんは思います。あおぺんも同感です。


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