『時計坂の家』


高楼方子/著 千葉史子/絵 福音館書店

2016年・(1992年リブリオ出版)

12歳の夏休み。フー子は、いとこのマリカに誘われ、7年ぶりにひとりで汀館の祖父の家にやってき た。近くに古い時計塔が建つ祖父の家は、祖父とお手伝いの女性が暮らしている静かな家だ。そこでフー子は、2階の階段の踊り場の先に、打ち付けられた扉の存在に気づく。

扉についた窓枠には、蓋が黒く錆びた古い懐中時計がかかっており、フー子が窓を眺めていると突然時計がコチコチと時を刻み始め、次第に白い花へと変化するとともに、窓の向こうの空間に緑の園があらわれた。あるはずのない不思議な庭園は迷路になっており、その魅力に引き込まれていくフー子は、過去に扉の外にあった物干し台から祖母が転落して死んだことを知る。祖母はこの庭園を知っていたのではないか?

フー子とマリカの(別な祖父方の)いとこの映介は、時計塔の時計の制作者で、昭和初期に汀館を訪れたロシア人時計職人チェルヌイシェフの秘密を追い始める。時計塔と懐中時計の関係は?不思議な庭園の謎とは?


ごく普通の少女だと自分自身が思っているフー子にとって、特別な緑の園は当然特別な子を待っているはずと信じています。それは自分ではない。でも、園の中心を知りたい。そんなフー子の心のゆらぎを丁寧に描きながら、過去から現在へ続く謎が明らかになっていく、ぞくぞくする魅力的な物語です。このぞくぞくには、謎の解明と怖さが含まれています。
 
物語を読む醍醐味は、その物語の世界に入り込むことでもあります。ただ、本当に没頭できる作品に 出会えることはまれで、良い物語であるという以上に、自分と波長があうかどうかが大切なのかもしれません。この『時計坂の家』は、あおぺんにとってのそんな宝物のような物語です。


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