『黄色い夏の日』


高楼方子/作 木村彩子/画 福音館書店

2021年

中学校で美術部の景介は、絵の課題で描きたい家があった。黄色いキンポウゲに囲まれた、堅牢に、しんと建っている、黒ずんだ灰色の壁と緑の屋根の古めかしい洋風建築の家。でも、家の前の道路でひとりで絵を描く勇気もなく、たたずむ景介の前に、家から出てきたのは、祖母と病院で同室だった女性、小谷津さんだった。

ひょんなことから、この家と縁を持った景介は、この家に住むわがままで率直で魅力的な女の子ゆりあと出会う。夏休みの間、小谷津さんが困っていた本の整理を手伝うという名目で、家に通い始めた景介は、このことを誰にも打ち明けられなかった。


高楼方子さんの、不思議な物語。夏にキンポウゲの黄色にゆれる花に誘われるように、おばあさんの小谷津さんの住む家にひきつけられていく景介。決して小谷津さんが、その存在に触れない女の子ゆりあ。やがて家の裏手にある古めかしい家に住む女の子やや子とも交流が始まり、景介はどんどん小谷津さんの家にのめりこんでいく。その一方で、幼馴染の晶子から見ると、景介は顔色が悪くなりやせていく。

聡明な景介は、自分が普通ではないことに関係していると気づいてはいるが、ゆりあに焦がれるあまり、それを無視している。しかし、晶子の介入により、事態は展開し、この家に潜む秘密が明かされていく。

夏の幻惑感を感じながら、物語に入り込めます。あおぺんは、個人的に高楼さんの長編物語が大好きで、ああ新刊!とわくわくしながら本書を読みました。とても面白いのですが、もしかするとこの作品に関しては、十代の人より、それこそ六十代以上の女性の方が楽しめるのではないかなと思います。視点は中学生の景介と晶子なのですが、物語の核は小谷津さんだから。うーん、うまいことまとめるのが難しい物語なのですが、おもしろいのは確かです。

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