『あのひの音だ よおばあちゃん』


佐野洋子/さく・え フレーベル館

1982年

小さな家に おばあさんと 一匹の ねこが すんでいました。

雪のふる夜、ねこは おばあさんに じぶんが ここんちの子に なったときのことを 話して とねだりました。

ねこは、やはり 雪のふる夜、自転車にのって やってきた 大きな 大きな 黒いぶたが つれてきたのでした。

そのお話しが おわったころ、外から 自転車をこぐ音が きこえてきました。

あの日と おなじ 音でした。


『100万回生きたねこ』(講談社)で有名な佐野洋子さん。でも、あおぺんはこの『あのひの音だよ おばあちゃん』が一番好きです。長い物語ではないので、低学年くらいから自分で読めますが、大人にもとても読み応えがあります。

そもそも、ねことおばあさんのやりとりが佐野洋子さんらしく、一筋縄ではいきません。普通は、ねこがツンデレなのですが、おばあさんがツンデレです。家より大きな謎の黒ぶたが、雪の中小さな子ねこをおばあさんに「押しつけ」にくるのですが、そんな役にもたたないねこなんていりませんと、返事をするおばあさんの話を聞くだけで、ねこは泣いてしまいそうになります。でも、おばあさんはちゃんとねこをひきとって、大事にしてくれるのです。

そして、再び聞こえてくる自転車の音。ぼくをとりもどしに来たのかと、どきどきするねこ。でも、黒ぶたの目的は、賢い何でもできるくろねこを、この家に置いていくことでした。(表紙にいるねこはこの子です)

自分の居場所、そして愛情、幸せ。そんなことを、じんわり感じさせてくれる物語です。天才のさみしさ、孤独もちょっと感じさせながら、平凡であることの幸福も。ねこ好きはもちろん、子ども、自分探し中の十代、ちょっと寂しい大人、日々こつこつ暮らしているあなたにも、ぜひお手元においてほしい本です。

あ、そういえばねこの名前?は「ねこ」です。きっと、ねこはこの子しかいないから名前なんて必要ないってことでしょうか。それとも、ねことおばあさんはそれぞれ、誰でもありえるってことなのでしょうか。今後、ちょっと考えてみたいテーマです。


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